なぜ「枯れた技術」を選んだのか——ASP事業のシステム基盤
2000年代に日本でASP事業を立ち上げたとき、システム基盤には、当時流行していた独自フレームワークではなく、あえて長く使われてきた技術(LAMP構成)を選びました。この判断が、その後の安定運用と事業売却につながりました。技術の新しさを追いかけがちな業界の中で、あえて逆を行った判断です。

重要ポイント
- 時期: 2000年代・日本
- 立場: ASP事業の経営者
- 判断: 独自フレームワークではなく枯れた技術(LAMP構成)を選択
- 結果: 数年以上の安定運用のあと事業を売却
Q. なぜ、あえて古い技術を選んだのですか?
A. 扱える人を採用しやすいことと、資料が世の中に豊富にあることが理由です。新しい技術は習得している人が少なく、資料も少ないため、結局その技術を選んだ本人しか扱えないシステムになりがちです。事業を長く続けるつもりなら、それは大きなリスクだと考えました。周囲のエンジニアの多くは、目新しい独自フレームワークに惹かれていましたが、私は「今この瞬間の生産性」よりも「5年後、10年後も誰かが扱えるか」を優先しました。
Q. 独自フレームワークには、どのような魅力があったのですか?
A. 開発の速さや、その時点での機能の豊富さは確かに魅力でした。しかし、独自フレームワークは開発した本人やごく一部のコミュニティしか深く理解しておらず、採用市場にも人材がいません。事業の初速だけを見れば有利でも、運用を10年単位で考えたときには不利になると判断しました。
Q. 実際に、その判断はどのような効果をもたらしましたか?
A. 事業を運営していく中で担当者は何度か入れ替わりましたが、そのたびにシステムが止まるということはありませんでした。誰が見ても理解できる技術で構築していたからです。新しく入った担当者も、既存の資料や一般的な知識をもとに、比較的早く引き継ぐことができました。
Q. 事業を売却するときにも関係がありましたか?
A. はい。数年以上運用を続けたあとでこの事業を売却できたのですが、買い手にとっても「引き継いだあとに運用できるか」は重要な判断材料になります。枯れた技術で構築していたことは、ここでも安心材料になったはずです。買収の交渉では、技術的な珍しさよりも、こうした「誰でも扱える」という地味な安心感のほうが評価されると実感しました。
Q. この経験は、今のAI導入の相談にも活きていますか?
A. 活きています。最新のAIツールやフレームワークを選ぶこと自体は悪くありませんが、それを扱えるのが社内やベンダーの特定の一人だけになっていないか、その人が離脱したときにどうなるかは、導入前に必ず検討すべき点だと考えています。
Q. この判断は、今のクライアントにも同じように勧めているのですか?
A. 勧めています。特にAIツールの選定では、機能の新しさに目を奪われがちですが、社内に扱える人がどれだけいるか、採用市場に人材がいるかを必ず確認するよう助言しています。技術の寿命は、性能ではなく「担い手がいるか」で決まることが多いというのが実感です。
運営者メモ
「新しいから」ではなく「誰でも扱えるか」を基準にする判断は、20年以上前の事業でも今のAI導入でも変わりません。技術の新しさより、その会社が使い続けられるかどうかを優先しています。
流行の技術を追いかけること自体は悪いことではありませんが、中小企業やスタートアップにとって、担当者が一人退職しただけでシステムが停止する事態は、機能の目新しさよりもはるかに重大な経営リスクです。技術選定の相談を受けるときは、常に「この技術を選んだ人がいなくなったらどうなりますか」と問いかけるようにしています。
中小企業のCTO代行として技術選定に立ち会うときは、必ず「この技術を選んだ人がいなくなったらどうなるか」をチェック項目の一つにしています。

