システム保守費用の相場より大事なこと|見積書と契約書で「高いか」を見分けるポイントとは?
システム保守費用の相場を調べても、自社の保守費用が高いかどうかは分かりません。社内に技術責任者がいない経営者が、見積書と契約書のどこを見て、開発会社に何を聞けば保守費用の妥当性を自分で判断できるかを、確認する項目ごとに解説します。

要約
- 保守費用が高いかどうかは、相場の数字ではなく、見積書と契約書に書かれた中身で判断します。
- 見るのは、作業の内訳、対応の水準、保守に含まれない作業、ソフトウェアの更新、バックアップの復元、業者を替えるときの条件です。
- 書かれていない項目は開発会社に質問し、答えを文書でもらえば、技術が分からなくても判断できます。
システムの保守費用は、相場で高いかを判断できるのか
判断できません。同じ月額でも、何をどこまでしてくれるかが契約ごとに違うからです。
ここでいう保守は、動いているシステムの不具合を直したり、システムを支えるソフトウェアを新しいバージョンに入れ替えたりする作業です。運用は、監視やバックアップ、定期的な処理の実行など、システムを止めずに動かし続ける日々の作業を指します。見積書では両方をまとめて「保守費用」と書くことが多く、その中身は契約によって大きく異なります。
私は、保守費用が高いかどうかを相場の目安では判断していません。中身で判断しています。CTO(会社の技術面の責任者)がいない会社で、同じ問題を何度も見てきたからです。経営者には技術面の良し悪しが分からないため、開発会社が示した金額をそのまま受け入れます。あとになって、保守費用が高すぎることや、ほかの会社に移れないシステムになっていることに気づきます。相場と比べて「平均的だから問題ない」と考えても、この問題は防げないのです。
見積書では何を確かめるのか
作業の内訳が書かれているか
最初に見るのは、保守費用の内容です。内容が分からなければ、高いか安いかを比べられません。
私は開発の見積もりを見るとき、設計・実装・テスト・保守の工数(作業にかかる人の時間)の割合が妥当かを必ず確かめます。安すぎる見積もりでは、たいていテストや運用保守の工数が入っていません。高すぎる見積もりでは、要件(システムに求めること)が固まっていないまま、「念のため」の作業が上乗せされています。保守費用も、この見方で判断できます。(実例は見積もりの工数の割合を確かめた事例をご覧ください)
保守の内容には、次のことを記載してもらいましょう。
- 各ソフトウェアなどの更新頻度
- 監視の対象と緊急時の対応方法
- バックアップの対象と保存方法
- 問い合わせや障害へ対応するまでの時間
- 毎月の作業時間と超過したときの扱い
安すぎる保守費用も安心はできません。知人の起業家が、ウェブサイトを安く作れたと喜んでいたことがあります。私が中を確認すると、セキュリティの穴が多数ありました。結局、直すための費用が後からかかり、無駄な出費になりました。保守費用が安いときは、ソフトウェアの更新や監視業務が省略されているか確認しましょう。
サーバーの費用に「念のため」が積まれていないか
保守費用の請求に、サーバー(システムを動かすコンピューター)やクラウド(自社でサーバーを持たず、インターネット越しに借りて使う仕組み)の利用料が含まれていることがあります。ここには、不要な機能や性能が契約されている可能性があります。
私が関わったあるプロジェクトでは、サーバーの性能が必要以上に高く設定されていました。実際のアクセスログ(システムへのアクセスの記録)を調べて構成を改めた結果、毎月の費用はおよそ半分になりました。「不安だから多めに」追加した機能や性能をやめ、実測のデータで決めたことが効きました。開発会社には「この性能にした根拠となる、アクセスの実績を見せてください」と聞いてみましょう。(実例はアクセスログでサーバー費用を見直した事例をご覧ください)
クラウドの費用と、開発会社の作業代が分かれているか
クラウドを使っている場合、クラウドの会社に払う費用と、開発会社に払う作業代は別物です。たとえば Amazon のクラウドサービス AWS には、技術的な問い合わせに答えるサポートプランがあり、利用料とは別に料金がかかります。
請求書には、クラウドの利用料、クラウドのサポート料、開発会社の作業代を、分けて書いてもらいましょう。合計の金額だけでは、開発会社の作業代が高いのかどうかを判断できません。
契約書では何を確かめるのか
対応の水準が数字で書かれているか
契約書で最も大事なのは、SLA(サービスレベル合意)です。「月にどれだけ動いていることを約束するか」「止まったら何時間で直すか」など、サービスの水準を数字で取り決めたものです。
開発会社との保守契約では、「何時間以内に返事をするか」「何時間以内に直すか」は数字で明記してもらいましょう。私は以前の案件で、想定アクセス数や障害時の対応水準を曖昧にしたまま契約し、稼働後にトラブルになりました。それ以来、性能や障害対応の条件は必ず数値で文書にしています。
対応時間の約束がない保守契約は、金額が高いか安いかを判断できません。
保守に含まれない作業が書かれているか
保守費用を支払っているのに、画面や機能を直すたびに、別料金を請求されることがあります。この問題は、保守内容の詳細が契約書に書かれていないときに起きます。機能の追加や変更を保守に含めるかどうかは、契約で決めることです。書かれていなければ、開発会社は別料金として扱えます。
私は開発を担当するとき、要件定義書(システムに求めることをまとめた文書)とは別に、「やらないことリスト」を発注側と開発側で先に合意してきました。あとからの追加要望で、作業の範囲が膨らむのを防ぐためです。保守契約でも同じ考え方が使えます。「保守に含む作業」と「保守に含まない作業(別見積もりになる作業)」を、具体的に書いてもらいましょう。
バックアップから戻せることを確かめているか
バックアップ(データの控えを別の場所に取っておくこと)は、多くの保守契約に入っています。確かめたいのは、取っていることではなく、戻せるかどうかです。
私が経験した障害で最も大きかったのは、データを記録するディスクが壊れたときでした。バックアップを点検していなかったため、元に戻すまでに丸一日以上かかりました。この障害のあとは、控えのデータで本当に元どおりにできるかを、決まった間隔で試しています。契約書や毎月の報告書に「復元の試験をいつ行ったか」が書かれていなければ、開発会社に確認しましょう。
ソフトウェアの更新が保守に含まれるか
ソフトウェアには、提供元が決めた修正の期限があります。期限が来たときの入れ替えが保守費用に含まれるのか、別の見積もりになるのかを確かめましょう。
あわせて、今のシステムがどのソフトウェアのどのバージョンで動いていて、修正がいつまで有効なのかを一覧にしてもらいます。期限が近いソフトウェアがあれば、入れ替えの費用と時期を前もって聞いておきます。そうすれば、急に大きな請求が来ることを避けられます。ソフトウェアの更新が自動になっているか、更新の失敗を監視できるかも、同じ一覧で確かめましょう。
業者を替えるときに何を渡してもらえるか
特定の業者や製品に頼ったシステムで、ほかへ移ろうとすると大きな費用がかかる状態を、ベンダーロックインと呼びます。この状態では、保守費用の交渉が難しくなります。ほかに移るという選択肢がなくなるからです。
私は以前、動画を配信するシステムの開発で、安く済むという理由だけで、特定のデータベース(データをためて管理するソフト)に頼った作りを選びました。あとで別のサービスに移ろうとしたところ、大がかりな作り直しが必要になりました。この失敗のあとは、新しい契約の際に、ベンダーロックインから抜け出すための費用を必ず計算しています。ベンダーロックインの対策方法は、ベンダーロックイン対策|技術責任者がいない会社が開発会社・クラウド・SaaSに縛られない方法と脱却の順番で説明しています。
資料のないシステムを引き継いだこともあります。設計の資料がなく、プログラムの中に説明の書き込みもほとんどなかったため、プログラムを読み解くところから始めました。この経験から、他社のシステムを引き継ぐときは、今の仕組みを把握するための調査を、作業の最初に必ず入れています。資料がなければ、引き継ぐ会社はこの調査から始めるため、その分の費用が上乗せされます。資料がない状態からの引き継ぎの進め方は、他社システムの引継ぎで失敗しない進め方|資料がない状態からの手順で説明しています。
契約を終えるときに、プログラム一式、設計の資料、サーバーやクラウドの管理画面に入るための情報が自社に渡されるかも確かめましょう。これが決まっていない契約では、ほかの会社に乗り換えるという選択肢がなくなります。
確認する項目の一覧
| 確認する項目 | 見る場所 | 開発会社への質問の例 |
|---|---|---|
| 作業の内訳 | 見積書 | 保守費用に含まれる作業を、項目ごとに書いてください |
| サーバーの性能の根拠 | 見積書・請求書 | この性能にした根拠となる、アクセスの実績を見せてください |
| クラウドの費用の分け方 | 請求書 | クラウドの利用料・サポート料・作業代を分けて書いてください |
| 対応の水準(SLA) | 契約書 | 何時間以内に返事をし、何時間以内に直しますか |
| 保守に含まれない作業 | 契約書 | 別見積もりになる作業を、具体的に書いてください |
| バックアップの復元 | 契約書・報告書 | 最後に復元を試したのはいつですか |
| ソフトウェアの更新 | 契約書・報告書 | 使っているソフトウェアのバージョンと、修正が続く期限を一覧にしてください |
| 業者を替えるときの条件 | 契約書 | 契約を終えるとき、何を渡してもらえますか |
開発会社の説明が分からないときはどうするか
「コスト」「リスク」「時間」の3つの言葉で説明してもらいましょう。私自身、技術に詳しくない経営者へ説明するときは、専門用語を使わず、この3つの観点で話すようにしています。
たとえばソフトウェアの入れ替えなら、「今入れ替えると費用はいくらか」がコスト、「入れ替えないと何が起きるか」がリスク、「いつまでに決める必要があるか」が時間です。この形で答えてもらえれば、技術が分からなくても理解できます。
答えは文書でもらいましょう。口頭の説明だけでは、あとで「聞いていた話と違う」となったときに確かめる手段がありません。
保守をやめたら何が起きるのか
保守費用が高いと感じても、すぐに保守をやめる必要はありません。ソフトウェアの修正の期限が過ぎても、システムはしばらく動きます。しかし、その後に見つかった弱点は直されません。
保守費用を下げたいときは、やめるのではなく、不要な作業と足りない作業を分けましょう。最適なサーバーを選び直す、別料金となる作業をはっきりさせる、といった見直しは、保守を続けたままできます。
よくある質問
システムの保守費用の相場はいくらですか?
保守費用の相場は、契約ごとに違います。見積書の内訳と契約書で、何にいくら払っているかを確認して比べましょう。
毎月保守費用を払っているのに、改修で別料金を請求されるのはなぜですか?
「改修は毎月の保守に含めない」「改修は別料金」と契約に書かれているためです。契約書に「保守に含まない作業」が書かれているかを確かめ、書かれていなければ書き足してもらいましょう。
開発会社に内訳を聞くと、関係が悪くなりませんか?
内訳の確認は、発注者として重要です。私自身、発注側と開発側で「やらないこと」を先に合意しておいたことで、作業の範囲が膨らむのを防げました。質問は文書で送り、答えも文書でもらうと、双方の認識を記録・保存できます。
まとめ
- 保守費用が高いかどうかは、相場ではなく、見積書と契約書の内容で判断します。
- 確認するのは、作業の内訳、サーバーの性能の根拠、クラウドの費用の分け方、SLA、保守に含まれない作業、バックアップの復元、ソフトウェアの更新、業者を替えるときの条件です。
- 書かれていない項目は質問し、「コスト」「リスク」「時間」に置き換えた答えを文書でもらいます。
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参考・出典
- AWS 公式サイト(サポートプランの料金): https://aws.amazon.com/premiumsupport/pricing/
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